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Innovation による安心・安全な社会の実現とその対価

2020年東京オリンピック・パラリンピックまで既に2年を切った。特に今回の大会では、日本政府主導の下、「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術・イノベーションの取組」が積極的に推進されており、具体的には科学技術イノベーションで世界を大きく前進させる9つのプロジェクト(スマートホスピタリティ、感染症サーベイランス強化、社会参加アシストシステム、次世代都市交通システム、水素エネルギーシステム、ゲリラ豪雨・竜巻事前予測、移動最適化システム、新・臨場体験映像システム、ジャパンフラワープロジェクト)が進行中である。

最近、その取り組みを身近で感じた事例として、昨年10月から羽田空港の国際線ターミナルで導入され、現在では全国5空港の帰国手続きで計64台が運用されている顔認証ゲートがある。今は日本人向けだけだが、法務省は2019年度中に外国人の出国審査も対象にする方針とのこと。入り口から「おもてなし」の精神ということであろう。

同じ顔認証技術でもお隣中国での活用で良く耳にするのは、セキュリティ強化や犯罪捜査における強力な武器としての運用である。中国本土でツアー中の香港の有名歌手、ジャッキー・チュン(張学友)さんのコンサート会場で、顔認証技術を用いた監視システムにより指名手配の容疑者が次々に逮捕されており、中国メディアによると4月以降、少なくとも十数人が逮捕されたとのことである。この活動を支えているのが、「天網」と呼ばれるAIネットワークシステムである。13億人の国民を対象にした凄まじい数のカメラによる撮影は顔認証アルゴリズムの精度向上にも間違いなく繋がる。様々な見方があることは承知しているが、「イノベーションによる安心・安全な社会実現」の一例という言い方もできるかもしれない。

当然のことながらこの類の取り組みには必ず「負」の側面がある。プライバシー問題である。生体情報は本人の許諾なしにデータベース化することは実務的観点からなかなか難しいが、顔認証による決済サービス・与信力評価等が一気通貫で拡がりつつある中国においては可能であろう。監視社会の環境が整いつつあると言えるかもしれない。

更に、今年5月、中国杭州市にある高校で生徒を30秒ごとにスキャンする顔認証技術が導入され、教室内での生徒の感情や行動を分析するだけでなく、図書室や学生食堂ではIDカードや財布の代わりとなるという記事を目にした。記事を読んだ当時は「子供たちが監視されるのか・・・」というネガティブな印象しか持っていなかったが、今は少々違う捉え方をしている。

先週、長く仲良くさせていただいていた家族のお子さんが自ら命を絶った。詳細は全くわからないため仮の話でしかないが、もしこういった行為も含めた監視(別の言い方をすれば“見守り”)インフラが整っていたら、その遠因だったかもしれない状況が察知でき、効果的な対応ができたのではないか。ひょっとするとその行為そのものも制止することができたのではないかと 強烈に感じた。こういった最悪の状況を避けることに資するのであれば、一定の代償(プライバシー問題に関する譲歩)も必要なのかもしれない と。

自分は決して「監視社会」推進論者ではない。しかし、これからの産業・経済成長のひとつの重要な鍵は「データ資源」である。企業のみでなく国家間でもその覇権争いが展開されつつある現状があり、また、その「データ資源」の提供者は我々個々人であり、「データ資源」に基づいた産業によりもたらされるであろう便益を期待しているのも、また我々個人である。特に「安心・安全な社会の実現」への期待感は大きい。これを真に実現するために我々個々人が負担(許容)すべき「対価」とは何だろうか。現時点ではこの問いに対する解は見つかっていないのが現状である。

四六時中監視されるような社会が好ましいはずがない。データ資源とプライバシー問題という難解な方程式の解もまたInnovationにあるはずである。スタートアップ、それを支えるベンチャーキャピタルが担うべき役割は重要であり、一刻も早く解いていかねばならない。

 

Author

Nobuyuki Akimoto

Dec 14, 2018